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牛上隆司のLet’s 吹奏楽
〈ベッソン〉ブランド公式ウェブサイト日本版特別企画として、2022年4月より、バンド指導者として全国的に活躍されているユーフォニアム奏者、牛上隆司氏による連載「Let’s 吹奏楽」を、全12回の予定でお届けしています。
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!、 Vol.2 コンサートを成功させるには、 Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント、 Vol.4 ホール練習!、 Vol.5 イメージ通りの演奏にするために、 Vol.6 アンサンブルの極意、 Vol.7 ハーモニー(理論編)
Vol.8 ハーモニー(実践編)
皆さんこんにちは♪ 今回は前回のハーモニーのお話の続き、実践編です!
実際の演奏に際して
前回述べた通り、基本的に楽器は平均律に調律されています。(但し、金管楽器は自然倍音を多用するため、同じ指使いで出る音は純正律的です。)普通に演奏していると、なかなかチューナーでど真ん中とは行きませんが、平均律的な音程で演奏していると思います。
ですが、ハーモニーを演奏する際に、調性やハーモニーの構成によって純正律の比率の振動数(音程)になるように上げたり下げたりして、協和させる事が出来ます。つまり、ハモらせるには音程を変えている訳です。もちろん無闇に変える訳ではありません。セオリーがあるので、それに従って変える事で、ハモりを実感する事が出来るでしょう。
そのやり方を説明する前に、基本の専門用語を知っておきましょう。音楽を専門に勉強された先生方はもちろんご存知だと思いますが、セントという単位はご存知でしょうか?ご存知ない方は、ここで覚えておきましょう。
セントは、半音を100に割った単位で、「2セント高く」とか「13.7セント低く」とか「15.6セント高く」などと使います。チューナーのメーターを見ると、右の一番高いところが(+)50、左の一番低いところが(-)50となっていて、その間目盛がふってあり5セント10セントなど見て分かるようになっています。後述しますが、いくつかのメーカーのチューナーでは、長三和音の際と短三和音の際の三音で鳴らすべき音程に印がしてあります。
因みにAの440Hzに対して441Hzは4セント、442Hzは8セント高くなります。数字が一杯出て来て面倒くさいですね。すみません、もう少しの辛抱です。
さて、話を戻します。平均律で五度音程の関係、例えばドとソの場合、割り合い綺麗にハモります。平均律から、ソを2セント上げてやるとピッタリ協和します。なので殆ど気にならないレヴェルと言えるでしょう。
しかし、ドとミの場合は、どうでしょう?この場合は、ミを13.7セント下げてやらないとハモりません。これは結構な違いです。協和する音程と平均律には、その位の乖離があるという事です。ですので、合奏の際にハーモニーが出て来た時には、そのハーモニーに合わせて音程を調整して演奏しましょう。
平均律と純正律:長三和音の比較 (C-durのCEG) ©牛上隆司
必要性が理解出来ない方もおられるかも知れませんが、ハモったサウンドを聴いて体感して頂ければ、一目瞭然というか一聴瞭然とでも言いますか、同じ編成とは思えないようなサウンドを感じる事が出来ると思います。上手いバンドやアンサンブルの演奏を聴いて感じるのも、とても良いと思いますが、自分達の演奏で実感出来れば、次もまた次もそのサウンドの心地良さを味わうために上手に演奏したいと言うモチベーションに繋がるのではないでしょうか。
具体的な音程の取り方と練習方法
最初に五度を合わせる
具体的な練習方法として、チューニングを合わせた状態で、まず五度をハモらせてみましょう。何でも良いですが、例えばFCAのハーモニーを合わせてみましょう。まずFとCの五度がハモっている事が大変重要です。そうでないと三音は、上手くハマりません。
では、やってみましょう。Fを鳴らしてからCを乗せるように鳴らしてみましょう。平均律の状態でもこの五度は、そこそこ綺麗にハモって聴こえます。ほんの少し濁りというか唸りの成分が分かると思います。Cの音をほんの僅かに上げてみましょう。行き過ぎないように注意して。チューナーとチューナーマイクを使って、それぞれの音を正確に把握するのも有効です。但し、ずっとチューナーを見たままと言うのはお勧め出来ません。これを耳で出来るように訓練して欲しいので、チューナーなしでもやってみて欲しいのです。
平均律と純正律:長三和音を構成する音の音程比較 (F-durのFAC) ©牛上隆司
長調の三音を鳴らしてみる
五度音程がハモったら、今度は三音のAを鳴らしてみましょう。これも平均律の音程だと濁った感じがあると思いますので、そこから下げて行きます。13.7セント低く、チューナーを見るとメーターのその位置に印がしてあります。あくまで根音が0セントに五音が2セント+に合った状態であれば、三音を13.7セント低く鳴らすと完全に協和した状態が得られます。ピタッと合って、とても心地良いサウンドになると思います。これを3人一組で、チューナーを使ったりはずしたりしながら行う練習は、とても実践的な耳のトレーニングになるはずです
長三和音の三音を楽器で合わせる (F-durのFAC) ©牛上隆司
長調の三音を鳴らしてみる。
ハーモニーディレクターなどがある場合には、平均律のハーモニーと純正律のハーモニーを交互に聴き比べてみましょう。結構な違いがあるので、初心者であっても割り合い判別がつきます。また、根音だけ弾いてみると変わらない、五音だけ弾くとほんの少しだけ高く、三音だけ弾くと結構下がるのが分かり音程感を掴む事が出来ると思います。それぞれを単音で鳴らし、それと同じ音程で吹いてみるのも良い訓練になるのではないでしょうか?
ある調で固定してから別の調で音階を弾くと違和感があります。 ©牛上隆司
短調の三音を鳴らしてみる
同じ事を短調のハーモニーでも、やってみましょう。五音をハモらせるまでは同じです。それで、先程のケースでは三音のAの音の代わりにA♭を鳴らします。短調の三音は、15.6セント高めに演奏します。チューナーにもこの15.6セント高めの位置に印があります。ただ、短調のハーモニーは、長調ほどスッキリハモる感じはしないと思います。短三和音は長三和音ほど性質的に協和しないのです。でも、これも先程と同じようにディレクターの鍵盤を弾いて、単音で吹いてみてとやってみると良いと思います。
作品の中のハーモニーを練習する
このように予め「このハーモニーをハモらせる練習をしよう」と言うような取り組み方もありますが、作品を演奏する中でハーモニーを見つけ、それを練習して行くのは更に実践的ですね。先ずはその部分のハーモニーだけ練習してハモらせてみて、前から来た時にその響きをイメージしながら演奏する訳です。プレイヤーそれぞれが、その音程の狙いや響きを理解して演奏すると協和した響きが得られやすく、そのサウンド感の中で演奏が続く事で、より水準の高い演奏となる事請け合いです!
七度、九度、十一度、複雑なハーモニーについて
ただ、注意点もあります。セブンスやナインス、イレブンスと言ったハーモニーを積み上げたような物もあり、ナインスの音は五音の五度上だから2セント高い五音の更に2セント高く取るとハモるかな?(つまり4セント高く)などと工夫が必要になります。また、純正律は必ずしも万能ではありません。特に近現代の作品においては、ハーモニーは複雑化して、ハーモニーとハーモニーを2つ3つぶつけ合うようなハーモニーも沢山登場します。ハーモニーをバラして見てみた時に、基本になるハーモニーを見つけたら、それぞれのハーモニーに分けて練習してみるのも良いでしょう。
また、音階の音を全て同時に鳴らすような音もあり、これはハーモニーというより、ガチャンとぶつかり合うような効果を狙った物で、平均律の方が効果的かも知れません。
作品に取り組むにあたって
そう、色々あるのです。でも先ずはバロックやルネサンスまたはヨーロッパの古い民謡を元にした作品などハーモニーの分かりやすい物から取り組んで、出来るようになったり理解出来るようになってから、徐々に難易度の高い作品に挑戦してみる事をお勧めします。理解せずに演奏したり練習したりする事は、辛い時間を過ごすばかりでその作品を楽しんでいる事にはならないと思いますから。時間も作品も勿体無いですね。演奏の能力が高くなって来て、理解力もついて来れば、そう言った作品の楽しみ方も分かるようになって来て格好良く演奏出来るようになると思います。
コツコツと頑張って行きましょう♪
Let’s 吹奏楽!
リサイタルのお知らせ
12月に3ヶ所でソロ・リサイタル開催を予定しています。是非お越し下さい!
牛上隆司ユーフォニアムリサイタル2022
出演:牛上隆司、ピアノ:平田侑、ゲスト:ヴィヴィッド・フロント・ライト(ユーフォニアム 岩満貴大、山戸宏之、大山智)
プログラム:ユーモラス・スケルツォ セルゲイ・プロコフィエフ / 協奏的幻想曲 ジャック・カステレード / セレナータ ヤン・ヴァンデルロースト(ピアノ版世界初演)/ パントマイム フィリップ・スパーク / ユーフォニアムとピアノのためのソナタ 西下航平(委嘱作品・世界初演)/ トライセンス 中川英二郎
会場/日時:
所沢公演 2022年12月15日(木) 開場18:30 開演19:00 @所沢市民文化センターミューズキューブホール
高崎公演 2022年12月21日(水) 開場18:30 開演19:00 @高崎芸術劇場音楽ホール
富山公演 2022年12月22日(木) 開場18:30 開演19:00 @北日本新聞ホール
主催:牛上隆司ユーフォニアムリサイタル実行委員会
後援:日本ユーフォニアム・テューバ協会、北日本新聞、一般社団法人吹奏楽教育協会
後援:株式会社ビュッフェ・クランポン・ジャパン、株式会社クロスターミュージック 、有限会社ウィンズラボ
チケット:大人2,500円、学生1,500円
チケット取扱い:イープラス、株式会社ビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールーム(電話番号:03-5632-5728)、クロスターミュージック(電話番号:0279-25-7755)、ウィンズラボ(電話番号:0766-25-9323)
※ 牛上隆司氏への指導および出演依頼は、最寄りの〈ベッソン〉公認特約店、またはビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールームへご用命ください。
※ 牛上隆司氏の経歴と現在の活動はプロフィール、およびインタビュー記事でご確認いただけます。
※ 牛上隆司氏に関する最新情報はFacebookでご覧ください。
牛上隆司のLet’s 吹奏楽
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!
Vol.2 コンサートを成功させるには
Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント
Vol.4 ホール練習!
Vol.5 イメージ通りの演奏にするために
Vol.6 アンサンブルの極意
Vol.7 ハーモニー 理論編
Vol.8 ハーモニー 実践編(現在閲覧されている記事)