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牛上隆司のLET’S吹奏楽
〈ベッソン〉ブランド公式ウェブサイト日本版特別企画として、2022年4月より、バンド指導者として全国的に活躍されているユーフォニアム奏者、牛上隆司氏による連載「Let’s 吹奏楽」を、全12回の予定でお届けしています。
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!、 Vol.2 コンサートを成功させるには、 Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント、 Vol.4 ホール練習!、 Vol.5 イメージ通りの演奏にするために、 Vol.6 アンサンブルの極意、 Vol.7 ハーモニー(理論編)、 Vol.8 ハーモニー(実践編)、 Vol.9 奏法の問題-鳴りについて、 Vol.10 奏法の問題-発音とリリース、 Vol.11 奏法の問題-音域とフィンガリング
Vol.12 楽器で歌うということ
皆さんこんにちは♪
1年間にわたって執筆して来たLet’s 吹奏楽も、今回が最終回となります。ご愛読いただいた皆さま、拙い文章ではございましたが、本当にありがとうございました。
12月から2月までの3回では、奏法の基本的なところをテーマに取り上げて来ました。つまるところ、奏法の基本というのは、表現するためのツール(道具)として、言いたい事が言えるようにするための物です。
例えば、あなたがとても歌が上手な人だとして、何か管楽器もやってみたいと楽器を手に取ったとしましょう。そして見よう見まねで吹いてみるとします。初めて吹いてみた管楽器の音は、恐らくは「ぷす〜」「びゃ〜、ぶわ〜!」と、とても音楽とは言えないような音が出る事でしょう。言わば生まれたばかりの赤ん坊が、伝え方が分からずに「お腹が空いた」「オムツが濡れて気持ち悪い」などと言えずに「ヒッ、ヒック」「オギャー!」と泣くような物です。でも赤ん坊でも暫くすると泣き喚くだけでなく、段々と「ママ、まんま、パパ」と拙い言葉で伝えられるようになって来ます。不思議な物で、周りの大人達が喋っている言葉と意味が繋がって、どういう音(言葉)を出すと何が伝わるか理解出来るようになるのですね。
音楽の場合も、歌の上手い人であれば、(大人ですし)どんな音を響かせれば良いか、どんな風に伝えたいか、という欲求を持って楽器を始めると思うので、自分の楽器の音を言葉として伝えられるようになるのが早いのではないかと思います。楽器の演奏は、歌との共通点がとても多いです。響かせ方や息の使い方など、歌から学ぶ事が沢山あります。
また、歌は非常に高いソルフェージュ能力が要求されます。管楽器のように楽器がある程度の音程を取って助けてくれるという事がありません。無限にある音程の中から自分が正しいと信じる音程を歌う訳です。歌の訓練をする事は、同時に非常に効果的なソルフェージュの訓練でもあります。そういった訓練を積む事で、管楽器を演奏する際の音程感の上達も期待出来ます。是非、歌の練習も合わせてやって行きましょう!
教室で時間を取って、ピアノの前で訓練するのも勿論良いのですが、歌はそれだけではありません。カラオケ屋さんに行って歌うも良し、お風呂で声を響かせながら気持ち良く歌うも良し。声を出して響かせる事に慣れると、音程を取るのも容易になります。これも歌と楽器の共通点ですが、まず良く響かせながら歌う(演奏する)事。これが本当に重要です。それには息をたっぷり使って、空気をエネルギーにして響かせるのです。しっかりと鳴っていなければ、コントロールは儘なりません。たっぷりの息を使って、良く響かせながら、様々な技術を駆使して表現して行くのです。柔らかい暖かみのある表現なのか、力強く訴えるのか、優しく語りかけるのか。(弱音の表現でも意外と息を使います)細かい俊敏な動きで鮮やかに伝えたいのか、マルカートの表現で印象的に伝えたいのか。当然、作品に依りますが、作曲された意図を楽譜から汲み取り、それを聴衆に伝えるのが演奏者の役割です。それがコンサート、コンクール、コンテスト、どんな場面でも演奏の機会ががあれば聴いてくれている人に分かるように、願わくば音や音楽に感動して貰えるように、演奏で伝える事が出来れば素晴らしいですよね。
それには、音符の通りに音が出ていれば伝わる物ではなく、その音やフレーズに気持ちが乗っている事が重要ではないでしょうか。作品の背景や作曲家の意図、演奏者のパーソナリティ、感情、様々な物を演奏に乗せて届けられるようになれば、聴いて下さる方達も感動して喜んで貰えるようになるのではないでしょうか。
一年にわたってお伝えして来た、基礎奏法や練習方法など、基礎技術の意義は、最終的には表現するためにあります。基礎がしっかり出来れば表現力が上がります。ですが、表現したい欲求や渇望が無ければ、本当の表現にはなり得ません。技術を学ぶのは重要ですが、ひとつのフレーズをどのように歌うか?といった事も、表現を学ぶ上で大変重要な事です。それには歌を学ぶ事が本当に大切です。吹きたいフレーズを声に出して(声楽的に良く響かせて)歌ってみましょう。上手く歌えたら、同じフレーズを楽器で演奏してみるのです。声で上手く歌えたように、楽器で演奏出来るようになれば、それは「楽器で歌えている」という事になります。歌えている演奏は、聴いていて心地の良い物です。そんな風に楽器を演奏する皆さんが、楽しくそして気持ち良く演奏する事が出来るように願っています!
1年間ご愛読いただきまして、誠にありがとうございました。今後は、演奏や指導を通して皆さんと直接お会いして、音楽のお話をしたりお互いの演奏を聴いたりする事が出来る事を楽しみにしております!
さて、本編はここまでですが、最近のトピックで気になっている事があります。部活動の地域移行です。
部活動の地域移行について
主に中学校のお話のようですが、中学校の先生の働き方改革が最も重要なテーマとなって動いているようです。確かに中学校の先生方と接していると、部活動以外の通常のお仕事だけでも、かなりの仕事を抱えていて(報告を上げるための書類の作成に忙殺されていて、殆ど生徒と関われないという本末転倒の状態をよく聞かされます)、その上ほぼ全員が何らかの部活動の顧問を任されるため、仕事量が膨大で勤務時間が長時間に及ぶそうです。特に吹奏楽部の顧問は、大抵の場合、指揮者としてご自身が中心となって関わらなければならず、特に未経験の先生にとっては大きな負担となっているようです。また、各中学校の全校生徒数や吹奏楽部の部員数もかなりの減少が見られ、学校によっては合奏で演奏するのが困難な学校があるのも事実です。そういった学校の生徒たちは、充分な合奏経験を積めませんから、複数の小規模の学校から同じ地域の生徒を集めて、一つのバンドとして活動するのは良いアイデアかも知れません。
気掛かりなのは、誰がそのバンドをまとめて指導して行くのか?というところです。(吹奏楽部で顧問をされている先生の中には、吹奏楽部で顧問になる事を目標に教員を目指して教員となり、その夢を実現して顧問をされている先生も沢山おられます。働き方改革を進めるのと同時に、こういった先生方が希望すれば顧問を続けられるような仕組みができることを期待しています。)本職の教員なのか、音楽の専門家達なのか、はたまた市民バンドなどで演奏しているアマチュアのかたなのか。吹奏楽は元より、ゴルフでも野球でも、自己流で人に教えているアマチュアのかたは沢山います。上手く教えられる人もいれば、そうでない人もいます。
吹奏楽部の活動は、生徒たちの音楽教育だけでなく、意欲の向上や責任感、連帯感の錬成等、重要な役割があります。生徒たちが限られた部活動の時間を有効に使い、成長してゆくためには、やはり音楽の専門教育を受け、教員資格を持つ指導者が望ましいと思います。もし専門的な指導者に心当たりがなければ、どうぞ私にご相談ください!
この部活動の地域移行を押し進めている方たちにお願いしたいのは、どうか生徒たちが安全で安心して活動出来る環境を与えて、伸び伸び楽しく上達出来る環境を作っていただけるよう願っています!
Let’s 吹奏楽!
※ 牛上隆司氏への指導および出演依頼は、最寄りの〈ベッソン〉公認特約店、またはビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールームへご用命ください。
※ 牛上隆司氏の経歴と現在の活動はプロフィール、およびインタビュー記事でご確認いただけます。
※ 牛上隆司氏に関する最新情報はFacebookでご覧ください。
牛上隆司のLet’s 吹奏楽
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!
Vol.2 コンサートを成功させるには
Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント
Vol.4 ホール練習!
Vol.5 イメージ通りの演奏にするために
Vol.6 アンサンブルの極意
Vol.7 ハーモニー 理論編
Vol.8 ハーモニー 実践編
Vol.9 奏法の問題-鳴りについて
Vol.10 奏法の問題-発音とリリース
Vol.11 奏法の問題-音域とフィンガリング
Vol.12 楽器で歌うということ(現在閲覧されている記事)