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牛上隆司のLET’S吹奏楽
〈ベッソン〉ブランド公式ウェブサイト日本版特別企画として、2022年4月より、バンド指導者として全国的に活躍されているユーフォニアム奏者、牛上隆司氏による連載「Let’s 吹奏楽」を、全12回の予定でお届けしています。
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!、 Vol.2 コンサートを成功させるには、 Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント、 Vol.4 ホール練習!、 Vol.5 イメージ通りの演奏にするために、 Vol.6 アンサンブルの極意、 Vol.7 ハーモニー(理論編)、 Vol.8 ハーモニー(実践編)、 Vol.9 奏法の問題-鳴りについて、 Vol.10 奏法の問題-発音とリリース
Vol.11 奏法の問題-音域とフィンガリング
皆さんこんにちは♪
今回のLet’s 吹奏楽も、前回に引き続き奏法の基礎的な問題と対処法についてお伝えしたいと思います。
今回は、音域の問題とフィンガリングなどの技術的な問題について取り上げます。
音域の問題
まずは高音域、低音域が上手く出せない場合です。例えば高音域が出せない場合、何が問題かと言えば、その音域を使う作品の演奏は諦めなくてはならなくなります。
「今年のコンクールは、ローマの祭りやりたいけどトランペットあの高い音出るかなぁ?」みたいな事ありますよね?パートの生徒で1人も出せなければ、諦める他ありません。(例え話が金管寄りで恐縮です)練習して出るようになっていけば良いのですが、音域を拡げるのは一朝一夕ではできません。時間もかかるし確実に出るようになる訳でもありません。ただ可能性を信じて日々、取り組むばかりです。これは木管でも苦労している生徒を良く見かけるので、同じ事ではないでしょうか?
闇雲に練習しろという事では無く、上手くポイントを掴んだ練習が出来ると効果が現れやすいと思います。高音域は、息のスピードを速く、低音域は、息のスピードをゆっくりすると鳴りやすいです。息のスピードを上げる感覚が掴めない生徒さんには、風船を膨らませる練習をさせるとスピードを上げられるようになる事が多いです。是非、試してみて下さい。逆に低音域は、たっぷりの息で、ゆっくり太く吐くようにすると鳴りやすいです。いずれにしても息のスピードとテンション(緊張感)や太さが、鳴らしたい音と一致している事が重要です。
また、マウスピースと口の当たる角度が音域に合っている事、これもまた非常に重要です。高音域も低音域も全て同じ当て方で吹こうとする生徒さんもおられますが(あくまで僕の感覚ですが)、例えば低音域は下顎を少し前にだして、顔を少し下に向けるようにしながら、太い息を若干上向きに吐いてやると出しやすいです。中音域と同じようにして吹いても出せるのですが、音程が上擦ってしまいます。また、低音域での注意点として、アンブシュアを緩め過ぎてしまわないようにしましょう。12月のアンブシュアで説明したように、緩め過ぎて支えが無くなると、音そのものが出なくなってしまいます。例え低音域でも、音を鳴らすには張った(緊張した)状態である必要があるのです。高音域での注意点としては、唇を横に引き過ぎない事です。横に引く力が強過ぎるとアンブシュアが崩れて、アパーチュアの形が保てず良い音が出ません。苦しそうな音になってしまいます。高音域の吹き方は、低音域に比べると息のスピードが速くなり、アンブシュアを作る口の周りの筋肉の使い方も強く、緊張感が高くなります。ただ、理想的には低音域から高音域まで外から見た感じは、あまり違わない方が良いでしょう。ただし、アパーチュアの開き具合いは、低音域は大きく、高音域は小さくなります。大きさは変わりますが、形は同じ相似の関係になります。このコントロールを上手く出来るように、毎日のトレーニングを欠かさないようにしましょう。
アパーチュアの開き具合い:低音域(左)、高音域(右)
管楽器のエチュードには、相応しい練習方法が掲載されていると思いますので、参考にしながら毎日取り組みましょう。拙著の「999秒の実践的で効果的なエクササイズ」では、Ⅳ〜Ⅴ及びⅦのエクササイズが、これにあたります。木管楽器でも広い音域にわたってコントロールするエクササイズがこれにあたると思いますので、取り組んでみましょう。
拙著:999秒の実践的で効果的なエクササイズ(風の音ミュージックパブリッシング)
リップスラーで低音域から高音域まで演奏する際、息のスピードや太さ、マウスピースと口の角度、アパーチュアの大きさなどを意識して練習してみましょう。
「999秒の実践的で効果的なエクササイズ合奏版」(写真)を使用すれば、木管楽器やコントラバス、打楽器と一緒に合奏で練習する事ができます。
フィンガリングなどの技術的な問題
次に、フィンガリングなどの技術的な問題についてです。
テンポの速い曲で、俊敏な動きや細かいパッセージを見事に決める事が出来ると格好良いですよね?それには高い技術が必要な訳ですが、上手く行かない場合はどんな問題があるのでしょうか。まずは指を思い通り素早く動かせる必要がある訳ですが、上手く動かない場合、楽器の構え方に問題がある場合が多いです。多くの場合、両手で楽器を支えながら指も動かしているので、支えるために使っている指は固定し、ピストンやロータリー、キーを動かす指は自由に動かせないといけない訳です。この支えながら動かすところに難しさがあるかなと思います。音を出している訳ですから、楽器とアンブシュアの関係が上手く当たるように、きちんと楽器を支えなくてはなりません。
その上で、フィンガリングに使う指は、自由に動かせているか確認してみましょう。この時点で問題を抱えている生徒さんが多いように思います。指を動かす際に、必要なストロークきちんと上から下まで動かせているか。余計な力が入っていないか。おかしな方向に押そうとしていないか。などチェックすると良いです。第一関節の指の腹で押すのが基本です。ただ、木管楽器の場合は、他の部分を使うキーも沢山ありますね。機能的に上手く動かす事が出来ているか、確かめた上でトレーニングをしましょう。
さて、それでは練習です。素早いパッセージや細かい動きは、音階や半音階が使われている事が多いです。(稀に音階かどうか定かで無い、不規則な動きを使う意地悪な作曲家もいますが…)ですので、まずは音階をスムーズに吹けるように練習しましょう。楽器を正しく構えられているか、指がきちんと動いているか、余計な力が入っていないか、色々チェックしながら、ゆっくりから段々と速く、メトロノームを使って客観的にリズムが崩れていないようにする事も大切です。調号の付いていない、やりやすい調からスタートして、段々♯を増やして行くドミナント・ローテーションで音階を練習して行くやり方がお勧めです。もちろん半音ずつ上の調や下の調を練習する方法、♭を増やして行くサブ・ドミナント・ローテーションなど、好みのやり方で良いと思いますが、出来るだけ全調やって、長調が出来たら短調とやって行くのが理想だと思います。そこまで時間が取れない場合は、もっか取り組んでいる作品の調は少なくとも練習しておくと良いでしょう。
半音階もやりましょう。半音階の場合、どの調でも同じように思うかも知れませんが、スタートの音や上がって下がる(または下がって上がる)折り返しの音が変わるだけで、指が上手く動かなくなってしまう事があります。ですので、色々なパターンで練習して苦手な動きを克服しておくと、実際の曲で難しい動きに直面した時に上手く対処して上手に吹きこなす事が出来るようになるでしょう。管楽器に限らず、楽器のフィンガリングは難しいです。人間には無理な動きも要求されます。この指は動きやすいけど、この動きはちょっと無理だよね。みたいな事もやらないといけません。ですから、動きやすいところは速く、動きにくい動きは鈍く遅くなってしまい、結果リズムが転んだり滑ったり、客観的に聴くと不自然な音楽になってしまうのです。そういった難しい部分に上手く対処して自然な音楽表現にして行くには、一見表現とは相対するテクニカルな問題を解決する必要があるのです。
ピアノのレッスンを受けていた方は経験があると思いますが、指が上手く動かない連符を練習する際に付点を付けてターンタターンタターンタターンタ、とかタターンタターンタターンタターンなどリズムを入れ替える練習をして矯正すると上手く弾けるようになる訳です。この練習方法は、もちろん管楽器にも応用出来ます。音階、半音階、また実際の作品でも難しいと思う部分で取り組んでみましょう。合奏のレッスンでも、生徒さんが上手く吹けない部分で数回このリズム練習をすると途端に吹けるようになる事が良くあります。普段から、こういった練習に取り組んでいると、苦手な動きを克服して、より高い表現力を手に入れて、楽しく演奏する事が出来るようになったり、よりレヴェルの高い作品に挑戦する事が出来るようになったり、音楽活動がより充実した物になるのではないでしょうか?
素早いパッセージや細かい動きを習得するための練習。メトロノームを使用して、徐々にテンポを上げて繰り返す。
今日お話して来た音域もフィンガリングも技術・テクニックの話ではありますが、それは同時に表現力の話でもある訳です。苦手を克服し、上手く演奏出来るようになる事で、より高い表現力を手に入れて、皆さんの音楽活動がより充実した物になる事を願っています。
Let’s 吹奏楽!
※ 牛上隆司氏への指導および出演依頼は、最寄りの〈ベッソン〉公認特約店、またはビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールームへご用命ください。
※ 牛上隆司氏の経歴と現在の活動はプロフィール、およびインタビュー記事でご確認いただけます。
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牛上隆司のLet’s 吹奏楽
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