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Bastien Baumet Interview

数々の国際コンクールで優勝し、パリ警視庁音楽隊のユーフォニアムソロ、パリ13区立モーリス・ラヴェル音楽院教授として活動する傍ら、国際的なソロ奏者として活躍するバスティアン・ボーメ氏。その経歴やユーフォニアムの魅力、また愛奏する〈ベッソン〉の楽器についてお話をうかがいました。
(取材:柴田克彦、通訳:藤本優子)
 
 
ユーフォニアムは最良の相棒

  ボーメさんがユーフォニアムを始めたきっかけは何だったのでしょうか。
ボーメ(敬称略) 両親がアマチュア演奏家だったこともあって、音楽をやりたいとの思いは幼い頃からありました。そこで6歳の時、最初に始めたのが打楽器です。次いで7歳の時に両親から、子供に合うサイズということでアルト(ユーフォニアムを小型にしたような楽器)を与えられました。これは私の唇との相性も考えて選んでくれたようです。ただアルトは当時のフランスではあまりポピュラーでなかったこともあって、10歳からユーフォニアムに移行しました。そしてレッスンを受け始めると、一生これを吹いていたい、できればプロになりたいと思うようになったのです。

  どのような教育を受けられたのですか。
ボーメ 最初に学んだのは地元の音楽学校です。でもすぐに両親が南仏のコンセルヴァトワールに行かせてくれました。これは11~12歳頃です。そこで個人レッスンを受け、ソルフェージュやアンサンブルも学びました。そして2006年、17歳の時にパリ音楽院に入学し、2009年に卒業しました。私をおもに形作ってくれたのは、最初のパトリック・モーリン以下3人の先生ですが、テクニックの面ではアーバンとクラークの教則本、特に後者には随分お世話になりました。ちなみに、私はユーフォニアムの第一人者になることを目標にしていましたから、1日7~8時間の練習をしていたこともありますよ。

  複数のコンクールで優勝されていますね。
ボーメ  2006年にルクセンブルクの「ヨーロッパ選手権ソロ・コンテスト」で優勝したのが最初の重要な賞歴です。2つ目はパリ音楽院2年目の2007年にフランス国家警察吹奏楽団のオーディションに合格したこと。コンクールではありませんが、私にとっては大きな勲章の1つです。そして人生を変えたのが、2008年「チェジュ国際金管打楽器コンクール」(韓国・済州島)の第1位。これはユーフォニアムの国際コンクールの中では最も大きなものだと思います。

  以後どのような活動をされていますか。
ボーメ もちろんソリストとしての活動が最も重要です。在学中に入団したフランス国家警察吹奏楽団には今も所属していますが、ユーフォニアム奏者が6人いるので、仲間たちの理解も得て柔軟なスケジュールを組むことができています。ソロ活動としては、ピアノとのリサイタルを行い、オーケストラや吹奏楽団にソリストとして出演するほか、ユーフォニアムが必要な作品でオーケストラから声がかかることも多いですね。また「パリ・ブラス・バンド」という金管と打楽器のグループでも演奏し、パリ13区立モーリス・ラヴェル音楽院とリヨンの音楽院─パリ音楽院と共に“国立高等”の名が付く2つの音楽院の1つです─で教えてもいます。まあ常に違うことをやっていますから、退屈することはありませんね。

  ボーメさんにとってユーフォニアムはどんな存在ですか。
ボーメ 結婚相手みたいなものです(笑)。友人と過ごすよりもユーフォニアムを友だちとして過ごした時間の方が圧倒的に長いので、最良の相棒とも言えますね。私が自分に課した目標の1つは、この楽器をもっと知ってもらうこと。昔より知られるようになったとはいえ、ピアノやヴァイオリン、あるいはトランペットのような存在にはなっていません。しかしユーフォニアムは、素晴らしいヴィルトゥオージティを持ち、華やかで人を魅せることができる楽器です。そのように皆のイメージを変えていきたいと考えています。

 
 
これぞユーフォニアム!という豊かな音色に惹かれます

  ユーフォニアム奏者の中には、太い音でストレートに吹く人と細めの音でヴィブラートを多くかけながら吹く人がいるような気がするのですが、ボーメさんはどちらのタイプでしょうか。
ボーメ 両方やりたい、演奏する曲に応じて変えていきたいと思っています。ユーフォニアムはイギリス発祥の楽器で、ブラス・バンド(金管バンド)の発展に伴って進化してきました。そこではヴィブラートを沢山かけるのが当たり前になっていますので、フランスや日本に持ち込んだ方々は、そのように刷り込まれていました。それは今でも変わっていません。しかしフランスの作品などは違うスタイルが求められます。なので私は作品に応じて小さなヴィブラートにするような吹き分けができて当然だと思います。

  個人的にお好きな曲、お薦めの曲などはありますか。
ボーメ 「展覧会の絵」は演奏機会が非常に多いですし、「惑星」もそうですね。マーラーの交響曲第7番はまだ2回しか吹いていませんが、こうしたオーケストラ作品は大好きです。でもリサイタルとは負荷の種類が全く違います。リサイタルでは約1時間半をトータルで考えますので、アクシデントが起こっても補うことができますが、オーケストラの場合は例えば2分だけ難しいソロが出てきますから、失敗すると取り返しがつきません。ですから緊張感も大きく、その2分間に自分が最高の状態になるよう力を注ぎます。またお薦めの曲に関して、楽器を学んでいる人に言うならば、1つでも多くの曲を聴いてもらいたいということです。楽器奏者である以前に、音楽を好きになることが何よりも大事。ピアノやヴァイオリンの作品であってもどんどん聴いてほしいですね。それにモーツァルトはユーフォニアムのための曲を書いてはいませんが、モーツァルトのスタイルを求められることは絶対にありますから、その音楽を知っていないと始まりません。ユーフォニアムの曲に限らず、あらゆる様式の曲を知っておかないと、ユーフォニアムでの表現もできないということです。

  ボーメさんが使われている楽器は何でしょうか。
ボーメ 〈ベッソン〉の”SOVEREIGN”(ソヴリン)です。〈ベッソン〉の専属アーティストになる前から”SOVEREIGN”を吹いていましたが、韓国のコンクールで優勝してパリのビュッフェ・クランポンから声をかけて頂いた際に、トリガーを付けてもらうようお願いしました。それ以外は皆さんが購入できるものと同じ楽器です。旅行も多く、かなり長い時間吹きますので、4~5年で楽器を替えていますが、ずっと同じモデルを使っています。慣れた楽器を良き相棒として使い続けていきたいですし、他の楽器を試してみて良いなと思っても、自分に一番馴染むのはやはりこのモデル。これが私の楽器だと思います。

  この楽器はどんな点が魅力ですか。
ボーメ 私が思うユーフォニアムのコンセプトは2つあります。1つはトロンボーンに近いクリアな音、もう1つはビロードのような倍音の豊かさです。その意味で〈ベッソン〉の音色は「これぞユーフォニアム」といった感じで、特にたっぷりした音と低音の倍音に惹かれます。そうした音の深みがこの楽器の一番の魅力ですね。さらにはメカニックも自分にとって非常に扱いやすい。広告的なアピールで言っているのではなく、本当にこの楽器が一番しっくりくるんです。私は〈ベッソン〉に指名してもらう以前から吹いていたので、これに嘘偽りはないことを強調しておきたいと思います。

  マウスピースは何をお使いですか。
ボーメ 〈デニス・ウィック〉です。色々使っていますが、主力はスタンダードな4番のサイズ。これは高音も低音も均質に出せるので吹きやすいですね。

 
 
モダンで豊かなユーフォニアムの音楽を作っていきたい

  ところで日本には何回位いらしていますか。
ボーメ 今回(2019年9月)が14回目です。最初は確か2010年のフランス放送のオーケストラのツアーで「展覧会の絵」を吹いたので、9年で14回になりますね。オーケストラとのツアーやブラス・バンドとの協奏曲、ピアノとのコンサート、マスタークラスやレッスンなど、毎回様々な活動を行っています。

  日本の学生について、どう思われますか。
ボーメ 日本のユーフォニアムの学生はハイクオリティだと思います。それに来るたびに目覚しく変化しています。ただ課題をあえて言うならば“呼吸”ですね。管楽器は息で表現しますから、呼吸をもっと勉強すればさらに良くなるでしょう。私はユーフォニアムの演奏で重要なのは99%呼吸だと思っています。呼吸をうまく使えば音のクオリティを上げることも、イントネーションを変えることも可能ですし、呼吸を良くするだけであらゆることが向上します。

  最後にCDについてお伺いします。今度新しいソロ・アルバムを出されましたね。
ボーメ ソロでは4枚目のCDになります。毎回レパートリーを変えていて、1枚目は細かく多彩な楽曲、2枚目はブラス・バンドとのイギリス物、3枚目はピアノとのクラシック作品、そして今回は、私のために作曲された新曲ばかりを管楽オーケストラと収録しました。私の夢は、ユーフォニアムのレパートリーをもっと一般的にすること、ユーフォニアムを色々な形でもっと聴いてもらうことです。ヴァイオリンなどと比べてモダンな、今の時代の楽器だと思いますので、既存のレパートリーを大事にすると同時に、新しいものを自分でどんどん作っていくことで、より興味をもってもらいたい。新作の初演には、未来の演奏者や聴衆を育てる要素があります。それに刺激を受けた人が次の世代でさらに面白いものを作っていく。自然にそうなるようこれを続けていきたいですね。

  今後もそのような活動をされていくということですね。
ボーメ ユーフォニアムの音楽は、軽い意味での人気が出てきていますし、クラシカルな面白さも築けつつありますが、さらにモダンで豊かなものを作っていきたい。ですから挑戦的なことを色々やっていこうとしています。例えば今回のCDには4曲入っていますが、あえて各々の繋がりなどを考えずに4人の作曲家にオーダーしたので、違った様式を持った新作が並んでいます。これによってユーフォニアムの新たな魅力を発見してもらうと同時に、自由に聴いてエンジョイしてもらいたい。そして一般の人たちもどんどん楽しんで、ユーフォニアムの世界を自分のものにしてほしいと思います。

  本日は長時間ありがとうございました。ますますのご活躍を期待しています。
 
 

※ ボーメ氏が使用している楽器の紹介ページは以下をご覧ください。
  〈ベッソン〉ユーフォニアム”ソヴリン

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