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牛上隆司のLet’s 吹奏楽
〈ベッソン〉ブランド公式ウェブサイト日本版特別企画として、2022年4月より、バンド指導者として全国的に活躍されているユーフォニアム奏者、牛上隆司氏による連載「Let’s 吹奏楽」を、全12回の予定でお届けしています。
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!、はこちら。
Vol.2 コンサートを成功させるには、はこちら。
Vol.3 演奏のクオリティを上げるための9つのポイント、はこちら。
Vol.4 ホール練習!、はこちら。
Vol.5 イメージ通りの演奏にするために、はこちら。
Vol.6 アンサンブルの極意、はこちら。
Vol.7 ハーモニー
皆さんこんにちは♪
今回は、前回少しだけ触れたハーモニーについて、詳しく出来るだけ分かり易く説明したいと思います。
音程とは
まず音というのは、波長があるという事をお話しました。振動数といっても良いのですが、1秒間に何回振動しているかで音の高さが決まります。
良く「442で合わせましょう。」などと言ってチューナーなどを調整(calibrationと書かれたボタンやツマミをいじって調整)します。もちろん暑い日で、なかなか下がらないから高めの443で!とか寒いから低めの441!などという事もしばしばあります。(その方が全体のチューニングを合わせるのが容易になるので)
現代では440〜445の幅だと思いますが、古い時代には415とか466、極端な例では380のような、現代とは半音も全音も違うようなピッチで演奏されていました。ちょっと本題とずれました。
それで、この442とか443とかは、実音Aの音程です。1秒間に442回振動するか443回振動するか、と言った事を表しています。
例えば、2人の奏者が442Hz(1秒間に442回振動する高さ)の音を演奏しているとしたら、その2人の音はピッタリ一致して聴こえます。(図例1)
これが、1人は442Hz、1人は443Hzであれば濁って聴こえます。(図例2)
図例1は、振動数がピッタリ一致して、波の高いところは両方とも高く、低いところは両方とも低くなっていてピッタリと合わさります。
図例2は、振動数がずれているため、あるところは高いところ、低いところが一致する物の、あるところでは高いところと低いところが逆向きになっている事が分かると思います。
音程が合っている時、つまり振動の高いところと低いところが一致すると、お互いの波が干渉して増幅します。音程がずれている時は、波の一致している時は増幅、逆向きになっている時は減衰します。そうすると強く聴こえたり弱く聴こえたり、うわんうわんうわんうわん〜というような何とも奇妙なサウンドがうまれます。これを「うなり」と言います。この「うなり」は結構厄介で、複数の奏者が音をのばしている(ロングトーンを演奏している)だけなのに、音程が合っていないと強くなったり弱くなったりするため意図しないリズムが聴こえて来てしまう事があるのです。或いは奇妙なヴィブラートのような不自然な歌い方に聴こえてしまう事があります。
表現する上で、この意図しない音響効果は邪魔になります。ある高校を指導している時に、何でそんな変な歌い方するの?と訊いた事があるのですが、1人ずつ吹いて貰ったら変な歌い方はしておらず、音程がずれていただけだったという経験もあります。一緒に演奏する人が、常に音程を合わせながら進んで行くと言うのは簡単な事ではありませんが、とても大切な事なのです。チューニング(基準音のB♭やA)が合ったとしても、他の音も合うとは限らない、寧ろ合わないのが当たり前と言うのが管弦楽器の難しいところです。半音ずつの音程を全ての楽器で一緒に練習するインターバル練習などが合奏体の音程合わせの良い訓練になります。まずユニゾンを合わせられるように練習しましょう。
音程を合わせるためには、999秒の実践的で効果的なエクササイズの第1章のインターバルで、周りと合わせながら演奏する習慣をつけると良いでしょう。
999秒の実践的で効果的なエクササイズ (木管・打楽器 基本セット) | 風の音ミュージックパブリッシング
999秒の実践的で効果的なエクササイズ(木管・打楽器 基本セット)/ 2022年9月発売
※ 2020年6月に発売された各金管楽器用と合わせてお使い頂く事で、合奏で基礎練習とウォーミングアップが出来るエチュードです。
オクターヴ
オクターヴというのは、ユニゾンが全く同じ振動数なのに対して、丁度2倍または2分の1の振動数である事です。振動数が2倍でオクターヴ上の音になります。
図例3のように、上の音が2回振動する間に下の音が1回振動します。このピッタリ2倍というところが重要です。このオクターヴに関しては、平均律・純正律・ピュタゴラス調律・アリストクセノス何れでも違いはありません。
どの調律方法でもオクターヴは、ピッタリすっきり合います。この先が、ちょっと厄介です。調律は、このオクターヴを12の半音に分ける際、どのように分けるか、それぞれ狙いや意味があります。哲学が違うとでも言いましょうか、ピュタゴラスだけに…
平均律と純正律
平均律は、全ての半音を均一に分ける調律法。純正律は、調性に合わせてハーモニーが協和するように調整された調律。(ピュタゴラスやアリストクセノスから純正律に発展して行ったと見て良いでしょう。)
平均律のハーモニーが上手く協和すれば、この厄介な問題は無かったのですが、オクターヴを12音に分けた事で上手く機能しなくなりました。端的に言えば、例えばドミソのハーモニーを鳴らした時に濁りが出てしまうのです。これは、12音の求め方が分かれば自明の事です。例えば半音高い音の振動数を求めるのに、元の振動数に係数として2の12乗根をかけます。話を単純化するため、Aを440Hzとします。オクターヴ上は880Hzになりますね。2の12乗根(12回かけると2になる係数)をかけると半音高い振動数が得られます。440× 1.05946309436……(小数点以下永遠に続きます)
これで、だいたい半音上の音の振動数が得られます。12回繰り返しかけると、だいたい880になります。(正確な数字は得られません)それで得た音程で、ドミソと弾いてみても綺麗に協和しないのです。汚いとまでは言いませんが、濁りがあります。平均律を使う意味は別にあります。
それを理解するには、純正律の求め方を理解する必要があります。純正律は、比率から振動数を求めて行きます。ドの振動数からソを求める時は、1対3/2。ファを求める時は、1対4/3。と言った具合いです。この求め方なら振動数の波の高い低いが均一に並びます。非常に綺麗に協和しますが、欠点もあります。それは、転調が困難な事です。ある調に純正律で調律すると他の調では使えない違和感のある音階になってしまうからです。ハーモニーディレクターなどをお持ちの方は、純正律で調を固定して別の調を色々弾いてみると、すぐに分かると思います。気持ち悪いです。転調出来ない楽器では、転調を繰り返す近現代の作品は演奏が困難ですから、平均律に調律しておく方が良い訳です。古典作品で、特定の調性しか演奏しないケース(ハープシコード、チェンバロなど)ならば、使用する調性に純正律で調律するのは面白い試みでしょう。
ある調で固定してから別の調で音階を弾くと違和感がある。 ©牛上隆司
長くなってしまいましたので、次回は実際の場面において、どのようにハーモニーを演奏するかトレーニングの方法も含めてお話して行きたいと思います。
Let’s 吹奏楽!
※ 牛上隆司氏への指導および出演依頼は、最寄りの〈ベッソン〉公認特約店、またはビュッフェ・クランポン・ジャパン ショールームへご用命ください。
※ 牛上隆司氏の経歴と現在の活動はプロフィール、およびインタビュー記事でご確認いただけます。
※ 牛上隆司氏に関する最新情報はFacebookでご覧ください。
牛上隆司のLet’s 吹奏楽
Vol.1 「セレナータ」ヤン・ヴァンデルロースト初のユーフォニアム独奏曲をお披露目!
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